八月
八月十五日
今日から気象観測を始める。七時、十三時、(六時)、二一時。
○ 巻雲
七時。気温十六度四分、湿度八五%、風無く雲量二、縮んだ繊維状又は皺状の巻雲が入
山(西南西)のうしろから放射状に出ていゐばかり。実に美しく、撮影して置きたい程だった。空気は透明で富士、鳳凰(地蔵岳)、甲斐駒、鋸、八ヶ岳連峰、釜無、入笠すべてほとんど鮮明に見えた。草上に露がどっさり。ハネナガササキリ(?)ヱンマコホロギ、ツツレサセコホロギ等が畑や草原で鳴いてゐる。燕一羽ピチーピチーと鳴きながら飛ぶのを見た。
十時四五分頃の新宿行きで石黒夫人と晶子さん帰京、その荷物を運びながら停車場まで行ったが、日射は強く暑かった。巻雲は比時も相変わらず見事、然し雲量に増減はない。いくらか北西の方へなびいてゐるかと思はれた。
○ ウスバキトンボ
停車場付近にウスバキトンボ沢山。
十三時。気温二十六度七分、湿度四八%、風少し東南東の微風。朝と同様、繊維状と釣針形の美しい巻雲、量は二ぐらゐ。富士の山体右側に積雲状の層雲が湧き、八ヶ岳赤岳あたりの上空に片積雲三ッぐらゐ漂っているのを見る。
○ ススキ
ススキは穂を出して赤褐色に光ってゐる。南瓜の実が暑熱と日射の強いため畑で萎えてゐる。エゾゼミ、アブラ蝉林に鳴き、
○ アキアカネ
真紅のアキアカネが池の水草の上に見出され、山キテフ一羽を草上に見うけた。
十八時。実に稀に見る清明な美しい夏の夕暮れ。もう露がとりつゐている。
○ 美しい夕日の時
気温二四度、湿度七十%、風無く雲無くたヾ見る端麗な夕暮れの山々谷々。太陽は入笠の右の山の背後に沈んだばかり。富士、鳳凰、駒、八ヶ岳、立科岳等すべて淡い紅紫色に燃え、殊に比處からは見えない落日に未だ正面から照らされゐる八ヶ岳立科連峰は壮麗である。昼間の暑熱から開放された山林と草原は涼しい緑に映え、
○ カンタン
バッタ、コホロギの声にまじって十二匹のカンタンの清高なトレモロ。林の方で時々アカゲラ、コゲラの「キョッ
キョッ
キョッ」や「ジー」。それに棒杭に繋がれている山羊の声。池のあたりの薮でしきりに「キイ
キイ」といふモズの甲高い声。
○ ヒヨドリ
ヒヨドリの声も昨日からきこえ始めた。裾野から釜無の谷へ帰るカラスが三羽、藤紫色の透明な空高く飛んで行った。クロツグミはもう歌を歌はないが、尚比の森に棲んでゐて十羽ぐらゐは見うけられる。時々その美しい声をきいたり姿を見たりする。それが今も地鳴きをきかせてゐる。
○ キビタキ
朝と夕方近くには一羽のキビタキも現れる。比の六月五、六羽ゐてあんなに毎日歌ってゐたのが、今は羽換をすませて地味な羽色になり「ピーヨ
ピーヨ クルッ クルッ
クルッ」と静かな林の中を鳴きながらさまよってゐる。どうも一羽しかゐないらしい。
○ ワレモコウ
今日ワレモコウの紫褐色の花を見た。ユウスゲ。
二一時 十九度 七七% 快晴、星と、おそく十八日ぐらゐの月。
露しとゞ。コホロギにカンタン一二匹の歌。頭上の琴 鷲
白鳥。
八月十六日
七時
気温十六度七分、湿度八七%、風は西の微風、雲一片もない快晴。入笠から富士までの鮮明な視程。但し昨日より心持ちかすんでゐるやうな気がする。露が激しい。観測地である裏の道路への往復に足はびっしょりになる。然し日当たりではどんどん蒸発して行くと見えて乾いた所もある。
○ ホホジロの歌
ホヽジロが方々で歌ってゐる。林のへり、草原の樹木の枝頭、又は畑の土の上で餌をあさりながら。ヱンマコホロギ、ツヾレサセ,バッタ等の歌相変らず。
ヒガラの澄んだ「チン
チン」、シジュウカラの「ツーチョ
シャガシャガ」。池の上ではオホルリボシヤンマが未だ姿を見せ、ノシナトンボも帯のある羽根をふるはせてゐる。月齢十八日ぐらゐの月が薄白く入笠の右手の尾根に沈まうとしてゐる。
○ 颱風警告
十三日正午の中央気象台発表によると、
「十一日気圧九六十ミリバール(七二十ミリ)の大台風マリアナ群島東方海上に発生、目下時速十六キロで北西に進行中、大体二十日頃西日本へ上陸する可能性がある」さうだ。被害の少なからんことを祈る。
○ キビタキの訂正
今日も続いてゐるこんな快晴は十二日から引き続いた天気である。五日間晴天続きという事になる。正面の森の木立ちの中で「ピー
ピー ピー
クルクル…クル…」と鳴く鳥を今日双眼鏡でよく見たら羽汚灰緑色どうやらキビタキの雌らしく思はれた。雄の羽換をすませたのであるまい。午後三時の今も来て鳴いてゐる。林の中の余り明るくない所を好きな鳥だ。
○ ツリフネサウ
正午に少し前森中の小湧水地の少し下のところで、ツリフネサウの咲いてゐるのを発見、
○ ミゾホヽヅキ
又その傍らに玄参(ごまのは)科のミゾホヽヅキ可憐な淡黄色の花を初めて見た。其所にはノアザミが花を開いていゐたが先づ一羽のクモガタヘウモンが来て長い間蜜を吸ひ、それが去ると一羽のスヂボソヤマキテウが来て入れ代って蜜を吸ってゐた。比のスヂボソは、やがて隣のヒヨドリバナへ行ったが気に入らぬとみえて順々にクルマバナ
カウゾリナ
サハヒヨドリと一つ一つ花を訪問したが、又戻って来てアザミへとまり、ゆっくりと其花にとヾまってゐた。入笠山を背景にそのあたりの白樺の白い幹に輝くやうな草原の緑。暑い日光。つめたい水の中には真紅の糸のやうな藻が一杯生えてゐた。
○
トビ
時折一羽の鳶が六
、七百米の高空を悠々と滑翔し、時々翼を絞って急降下し、又吹流れるやうに滑翔したり、木の葉返しを演じたりしながら、比の快晴の正午の空中を自由に舞台のやうに舞ってゐた。その内裾野の一小地点に何を見つけたか、急に一掴みの羽毛のように翼をしぼり身体をほそめると、つぶてのやうに一気に急角度の落下をして、向うの落葉松林の陰へかくれてしまった。
十三時、気温二七度六分、湿度五三%、風向南、風力一
殆ど快晴。たゞ富士の左胴体、鳳凰の上、鋸のうしろ、八ヶ岳から立科までの連山の上等に片積雲を認めるばかり。光三夫婦と隣家の名取さんも「今日は一番暑い」と言って驚いてゐる。東京市内は勿論三十度を越えたらしいと思ふ。
バッタを採って調べて放してやる。即ち、ダイメウバタ、クルマバッタモドキの何れも脱皮回数の多数によって大小があるらしい。八ヶ岳山麓に多いとあって、又、隣家の渡辺氏の令息も採集したといふミヤマフキバッタ(フキを食う由)というのは未だ発見するに至らなかった。
十四時。気温二八度六分、
今日の最高。
千葉の三里塚へ行ってゐる実子は、今日あたりリヤカーを曳いて小包か鉄道小荷物を出しに行ってゐる事だらう。20日頃帰って来るだらうと思ふ。暑いのに毎日忙しく苦労させてゐる。
十八時、二四度.五分、七十%無風快晴、穏かな夕暮。昨夕よりもいくらか霞んで富士がぼんやり見える。甲府盆地方面は淡桃色の濛気。鳳凰山頂三層の笠雲。蝙蝠の声がふって来た。
富士見駅前の広場へ今夜が最後の盆踊を見に行く。若い男女約五十人。八時半頃から九時頃まで見て帰る。比頃金星、木星、スピカの何れも入笠の山かげに沈み、天頂には琴、鷲、白鳥の星座と天川。八ヶ岳かすかに見え、釜無の谷に霧漠々。
比付近の盆の迎え火と送り火の子供の唱えごと
ボンサマボンサマコノアカリーデ オーイデオイデ 繰返す
ボンサマボンサマコノアカリーデ オカヘリオカーヘリ 繰返す
八月十七日
七時。十八度五分、八八%。無風、雲量一、片層雲。釜無山脈山頂付近に連鎖状の片層雲を見るのみ。視程は稍ぼんやり。富 士全く見えず。八ヶ岳は薄く輪郭だけを見る。草上に露。
○ 朝の花
ホヽジロの歌、露に濡れて咲く花にアザミ タチフウロ
ツルフヂバカマ、 オミナヘシ 、オトコベシ 、ツユクサ、
イヌゴマ、 クルマバナ、ハクカ 、ユウスゲ 、コマツナギ
、ゲンノシヤウコ、コウゾリナ 、ヒメジオン
、ユウガギク等。
十三時。二十六度八分、六三%。風北西、風力一、雲量六、積雲
比積雲はすべて鳳凰、八ヶ岳の山頂を被ふもの、一帯に銀青色のヘイズがあり、北西と東方に数個の玄雲を見る。
午後立沢行。(光三、栄子と一緒)小池光重氏方へ。同氏は八ヶ岳高原農業研究所御射山分所の理事にて立沢の篤農。同氏方で分所の小野、内藤両君と一緒になる。立沢の本村の大山祇神社の祭礼を見に行く。立沢は立場川の谷側に展開した戸数三百余の美しく富裕な村である。神社では盛んな素人角力が行なわれてゐた。
○ イチビ
比辺ではイチビを麻と一緒に作ってゐる。馬具の綱等に利用する由。但し小池氏は比植物の名前を知ってゐなかった。今は丁度花の咲く時で、丈の高い、大きな葉が緑のの花の黄色いイチビ(キリアサ)が方々の農家に見られた。一軒真竹と女竹とを栽植してゐる家があった。富士見付近では竹は出来ぬが、比辺では多少出来ると見える。
小池氏方では御馳走になり夜道を帰る。
二一時、二二度、七八%、無風、雲量九、層積雲。
八月十八日
七時、二十度、八八%、雲量七、余り濃くない積雲が南から。上空には薄い、力のない巻雲の帯と高層状破片、視程稍不良。山は釜無の中腹以外がぼんやり見えるきり。露。黒鶫は未だゐる。
○ ススキ開花 花カケ
ススキが花を開いた。
○ エゾゼミの朝鳴き はじめ時刻
八時四七分エゾゼミ鳴き初める。昨日は八時四五分。
十時頃から正午過ぎまで駅前郵便局へ行った序でに木ノ間、若宮、原ノ茶屋を一巡散歩。(詳細野帳にあり)
十三時。気温二十六度六分。湿度六七%
殆ど風無。雲量四、積雲(大小塊)雲向南西緩。空の色碧色。
午後五時半頃から驟雨性の雨となり六時半止む。軽微な不連続線上の降雨ではないと思ふ。
十八時
二四度五分、七九%、風無く、雲量(K.N.)9.W緩,微雨。
二一時。二二度五分、八三%、風無く、雲量十
大いなる大風、本邦南西部に接近の予報もあるも、当地にては未だそれらしき影響も予兆も感ぜられず。
○ 台 風
米第二十航空隊第七気象観測所(東京)は十六日九州
四国及び本州全部に対して二四時間及び三六時間以内に強烈な台風の襲来を予想されるとの台風警報を発した。日本南部に台風の襲来時の東京
横浜での風速は三十ノットと予想される。第九偵察隊の写真撮影は台風速度及び進路を偵察、適時に第七気象観測所へ無線報告をする事になってゐる。十七日午前三時台風の位置は北緯三十度六分、東経一三六度五分、と予想される。(十七日東京朝日)
○ 気象同好会
気象同好会が生まれ、十五時迄の会員申込者約四百五十名「上は理学博士から下は国民学校二年生まで、学者、サラリーマン、詩人、女学生とあらゆる階層の人を網羅してゐる。変わり種では詩人
尾崎
喜八氏が山形から駆けつけるほか‥‥」(十七日東京朝日)
同会長は阿部 正直伯爵。
「山形から云々」は何の間違いやら。しかも自分は比会が之ほど具体的に計画されてゐるとは全く知らなかったのである。
八月十九日
(午前九時半エゾゼミ鳴き出す。今日はいつもより約四十分おそい。)
七時二十度八分、八八%、風向北北東、一、雲量九、駒、八、鋸山頂ぼんやり。草上に露。
十時、Veilを裂いたやうな巻雲が数本南西から流れ出して天心を横断してゐる。別に仰角約二五度のところを南から東へかけて薄い巻層雲(幕状)が横たはってゐる。山々はすべて漠々とした層雲又は層積雲に包まれ、積雲も南↓北へ飛んでゐる。地上風向南、速二程度、空は濁った碧色、気温二四度四分。湿度七十%。松籟と樹葉の摩擦音。どうやら台風の影響圏内に入った感じだ。巻層雲は次々に天心まで拡大する模様である。
正午。南々東の風。風力二及至三。雲量九、南と北に青空が少し透いて見える。薄い巻層雲。但し太陽は雲をすかして見え、地上に薄い影もうつる。駒ヶ岳、立科、北アルプス方面、それぞれ乳白色の玄雲。八ヶ岳は権現以北層積雲を頂き、釜無入笠も山頂から稍下を一直線の雲底を持つSK(層積雲)に包まれてゐる。南と北との青空にはそれぞれ巻雲の縞模様が眺められる。エゾゼミ、アブラゼミ、ホヽジロ、カンタン等の声もいつもと変わりなし。太陽は暈(内暈)を現わしてゐる。十一時頃栄子と二人で畑のトマトの支柱の補強をした。風に備へる為。ヤナギタンポポ、ギボウシとを花瓶のために取って帰る。
十三時、気温二五度五分、湿度六六%、風南南東、二↓三、雲量十、但し薄いCS(巻層雲)とFK。太陽はCSを透かして輝き、薄色の内暈。九六十mbの台風が今夜半島原半島を襲うべしとの米軍豫報あり。
○ クルミ採り
名取の和男、八平二少年が竹ビクを下げて林内の落クルミを拾いに行くのでついて行く。鬼グルミの樹は近い所に三本ある。丸い褐色の李形の身が樹下に落ちてゐるのを拾ふのだが慣れない眼には中々見つからぬ。別かれてゐる二少年はぢきに発見する。これを取って地下三十センチ位の深さへ二十日間位埋めて置くと果肉が腐る。さうしたら種子をとってよく洗ひ乾燥するのだそうだ。八平君が其間に赤蝮を見つけて捕まへ後肢を二本揃へて頭部を木の幹へ打ちつけ殺し、後肢の趾の所から前肢の腋の下まで皮を逆剥ぎにしてゐる。それを折った小枝の先へ結びつけて、其の小枝を林の中の明るい地面へ挿込む。
○ 赤 蝮
地スガリ(バンニンキチとも言ってゐるそうだ)が此の赤肌の蛇を見つけて集まって来たら、今度は此の肉を細かく切って白い綿を結びつけ、同じ場所で地スガリに之を結わえる。蜂はそれをつかんで巣に運ぶ。子供は此の白い綿を目標に後をつけて地スガリの穴を発見する。そして其穴の中に幼虫が出来た頃を見計らって幼虫を採集し、食用にするのだそうである。彼らは三匹の赤蝮を発見して、銘々選んだ場所へ仕掛けた。クルミは五十あまり拾った。
それから農場の傍らの林の方へ散歩に行った。西の谷を二つ越えた松林。其の二つ目の谷は美しい花の原で、一寸公園のやうな感じだった。低くなった方は少しばかり開墾が進み、ソバ等が作ってあった。カハラヒワが二羽程。実になった大根の畑の大根の茎へとまって盛んに種子を食ってゐた。
○ ノスリ?
此の帰、途中で一羽のノスリらしい鳥の飛廻り鳴いてゐるのを目撃した。色は黄味がかって「ピー」といふ声で鳴いてゐた。
○クロツグミ
栄子はクロツグミの歌を農場付近で聴いたといふ。
十八時、気温二三度五分、湿度七九%。風無し。C(巻雲)又はCS(巻層雲)の薄きもの入笠を輻射点とし、権現をシューレン点とし全天を広々と流れて横断。但し、鳳凰、駒、八すべて見え、露は無い。
○ ヨタカ
六時五五分 ヨタカ頻りに鳴く。
二一時、気温二一度、湿度八二%。風無し、薄き雲流れをるものの如きも星はすべて見え、時々光輝明減す。露。
十九時の颱風位置、北緯三一度、東経一二九度四十分、中心気圧九六五mb、時速十五H
八月二十日日
7時、気温二十度四分、、湿度八二%、風南、風力一、雲量十、薄曇。(釣針状、ヴェイル状、波状)風向北北西、中には之と直交するものもあり。空一帯に白濁を呈し、積雲少々浮かぶ。谷間より層雲湧上り、次第にK(積雲)又はSK(層積雲)となる。富士を除いて他の山々は見える。露多量。
九時三十分エゾゼミ鳴出す。気温二三度、湿度七九%。薄曇の林中でヒメシロテフ一羽採集。比地では初めて見た。高原には多かった。季節はやはり今頃だったと思ふ。立科登山をした夏だ。
実子夕刻十二日ぶりで三里塚から帰って来る。
八月二一日
午前七時。層雲の量山々はおほむね雲に包まれ、釜無山も一五00米以上は雲の中だが視程はそれほど悪くない。北東五キロを隔てた中新田東方の開墾耕地の緑色が鮮明に見える位だ。今朝は鶫がこのあたりに沢山来て方々で鳴いてゐる。どういふ訳か分からないが珍しいことだ。サンセウクヒが一羽「ヒリリン、ヒリリン」と鳴いて飛ぶのを見る。これも珍しい。ツゞレサセコホロギとエンマコホロギの声がだいぶ賑やかになって来た。然し又開墾畑にも草原にも脱皮継続中の若いのがうんとゐる。これらのすべて成虫になったら大した合唱だらう。
○ エゾゼミの鳴き初めの時刻於ける気温と湿度
九時十分。例によってエゾゼミが一羽鳴き初め、つゞいて別の一羽が鳴き初めた。すると忽ちアブラゼミのもっと沢山の合唱が初まって二十分間ばかり続いた。比のエゾゼミの 鳴き出す朝の時刻は、どうも其の時の気温と関係があるらしい事に気がついた。八月十七日と十八日には其時の気温がとってなくて残念だが時刻は八時四十五分、昨日は九時半で気温二三度、湿度七九。今日は気温二三・五で湿度は同じく七九。事によると湿度も関係してゐるかも知れないと思ふ。八月十七・十八日の八時四十分頃も恐らく気温二三度位あった筈である。(温度、湿度、天気図表、参照)エゾゼミの朝の鳴き初めの時刻に於ける気温と湿度との観測を続けて何等かの関係があるものなのか突きとめて見ようと思ふ。
○ キセキレイ
カラスは依然として集まってゐるらしい。之を書いてゐるとキセキレイの声がきこえた。
吉祥寺と杉並へ来てゐて原稿依頼
● 「少国民」十月創刊号。巻頭の詩 十行位。(日本経国社)
● 国民科学協会 随筆 五、六枚
● 「コドモヱバナシ」 講談社 執筆否問合せ
● 共同通信特信文化部 随筆三枚
● 「地方風物」更科 源蔵君編集 随筆か翻訳
● 三笠書店 ヘッセ全集一冊分「母に帰る」加筆の件。
○ クルミ
午後クルミの実を十四ヶ拾って庭の片隅へ埋めた。廿日間そのまゝ。
隣家渡辺さんから「科学朝日」七月号を拝借する。
同誌「七月の星座」によると金星・火星は大体獅子座に。木星は乙女座にある。いづれも東へ巡行してゐる。土星は光度0.四度,双子座にあって八月初めには日の出前五度の高さに現れるといふ。(科学朝日)
東京上野科学博物館内に天気相談所主任伊 坂達孝技官。毎週土曜午後質問指導にあたる。(同前)
「科学朝日」八月号から
「八月十五日 夜明四時二六分 日出 四時五九分
日入十八時三0分 日暮十九時 八分
八月三一日 夜明 四時四0分 日出 五時一三分
日入一八時一一分 日暮一八時四二分
節気 處暑 二四日(太陽黄経 一五0度)
暑さの終り
二日 下弦 月出 二二時五九分
月入 一二時二四分
二七日 朔 月出 五時 五分
月入 一八時五0分
金星光度 月初 負三・七度
月半 負三・八度
月末 負三・九度
視直径も十八秒から二一秒へと増す。
九月八日 東方最大離隔、白昼の空でも見られるかも知れぬ。高度月初二四度月末二0度、月末乙女座スピーカを過って東一度の辺で九月に入る。月末三十日金星と三日月合となる。十月天秤座へ進入する。
火星 光度一・八度。月末スピカの西北八度、二九日三日月と合。高さ約二0度。
木星 光度斬減。月末一・三度となる。月末金星とスピカを加へて低い夕空を賑わす。」
八月二二日
○ カラ類の巡回
朝七時の観測の帰りに、林の中でドュラマンの所謂「カラ類の巡羅」に出合ふ。四十雀と柄長とを主としてそれに少数の日雀をまじへた四十羽ぐらゐの群れだ。四十雀の地鳴(ツーツー、ツーチョ)と警戒音(ガシャ ガシャ)、柄長の低いトレモロ(トゥリリリリ)、白雀の「チイ、チイ」が実に賑やかである。
○ カラ類と一緒にゐるコゲラ
それに交って二羽のコゲラも樹幹をコツコツ叩いて調べてゐる。どうも比の数量の観察によると比のカラ類の仲間のゐる所にはいつも揃って一、二羽のコゲラを見るやうだが、事によったら彼等も亦一緒になって巡羅をしてゐるのではないかと思ふ。それとも彼等の領分へカラ類の進入して来たのを見て興奮して活動を始めるのかとも思ふ。
○ サンセウクヒ
今朝は比の連中の集まってゐる林の上の方でサンセウクヒが一羽一緒になってゐるのを見たり其声を聴いたりした。之も仲間の一員になってゐるのかと思ふが、比方は余り確からしさが無い。少なくとも余り遠くへの巡回へは着いていかないだらうと思はれる。
○ カラス
今朝もカラスが集まって付近で盛んに鳴いてゐる。比原因らしいものは未だつきとめるに至っていない。
○ エゾゼミ
エゾゼミ九時二五分から鳴きはじめる。気温二三度八分、湿度七九。曇。五分間ばかりで鳴き止む。十時半再び始め一時間程つゞく。(気温二四度、湿度七九。日光)
七時から微雨降り初め、九時五分止む。
○ サヽクレヒトヨダケ試食
昨日は堆肥の馬糞に生えるサゝクレヒトヨダケといふか白色小型の茸を熱湯で煮てからバタいためにし醤油をかけて食うてみた。歯ぎれがよくまづくなかった。比茸は最近栄子の採って持って来た時は蓋のすっかり開き、表面もカンも黒く濡れて溶けかゝってゐるのだ。川村清一博士の「日本菌類図説」で調べてみて、どうもサイギヤウガサといふ菌の腐かれかけたもののやうに思ってゐた。ところが昨日午前エドワード・ステップのNature
in the
Gordenの下巻を見てゐると堆肥場にある前述の菌の菌蕾とよく似たものゝ写真が出ている。Lauryer's-wig
washroomとxわのださうで、食用に供するともある。それでもう一度念の為「日本菌類図説」を一枚一枚探ってゆくと淡紫褐色に著彩されたサゝクレヒトヨダケといふのがさうらしく解説を読むと白色の物を著者は友人の外国人から教へられ食ったと書いてあった。それで上述のやうに自分も試食したが、格別毒はないらしく、腹はどこもなんともない。たヾ余り充実してゐないし大きくもないので、食べでが無いのが欠点と云えば云える。有毒でないと極まれば熱湯でうでる(アンリ・ファーヴルは熱湯で処理すればどんな菌でも中毒はないと言ってゐる)にも及ぶまい。第一それでないと風味がわからない。
八月二三日
林-荒地-畑-切明-湧水地と歩いて見かけた時の花。
○ 近隣の花
キンミズヒコ(満開近し)ノコギリソウ(終り近し)ヌスビトハギ(盛)ユウガギク、オトギリソウ(終わり近く、光沢のある紫褐色の実美し)ホタルブクロ(終り近し)アキノゲシ、ミヤマママコナ、ダイコンサウ(終近し)カワラナデシコ、ユウスゲ、ゲンノショウコ、ナンバンハコベ、ヒメトラノヲ(終り近し)イヌゴマ(終迫)ツユクサ、ヒメジヨン(終り近)アレチノギク、キヲン(初期)タチフウロ、ヤマハハコ、ヒヨドリバナ、サハヒヨドリ、ヤマラッキョウ、ヒルガホ、ヘクソカヅラ、ギバウシ、ツリガネニンジン、ワレモコウ、ススキ、コケオトギリ、ヤマジソ、ヤナギタンポポ、ヤマアザミ、ムラサキツメクサ、(終近)カウゾリナ、クルマバナ(終り近)、ハクカ、ツルフヂバカマ、キキャウ、ツリフネサウ、ミゾホホヅキ、フシグロセンノウ、アカバナ。以上約四十五種
○ エゾゼミ
今日エゾゼミの鳴き初めは十時半(気温二三度。湿度七三、太陽は暑く一時間以上前から照ってゐる)
庭の中を多数のウスバキトンボが飛び\こんな事は今日初めてだ\キリギリスが鳴いてゐる。(后午)雲は高くて日光が暑い、風は然し涼しく吹いて松籟と葉ずれの音、(気温二五度七)エゾゼミはもう鳴いていない(后午)
○ 燕
午後一時半と四時頃、燕を見る。第一回二、三羽、第二回六羽。後の六羽は雨近き空を東に飛んでゐった。第一回のは鳴きながら空を舞ってゐた。
○ カナカナ
午後三時五十分裏の切明けの横の赤松林で一羽のカナカナが鳴いたが直ぐに鳴きやんだ。此處へきてからはっきり聴いたのは之が初めてヾある。八月三日頃遠くで一羽なくのを聴いていたかと思ったが、当時は耳のせいではないかと疑った。武蔵野では七月にはもう鳴いてゐる。こヽの七月を知らないので分からないが、どうも少ないらしい。
今朝七時の観測では気温十八度七分、湿度八八、草上に露があり、東の風一ぐらが吹いて雲量は七か八だったが、天の北半分には西へ緩やかに動く多少波状を呈したKcが横たはり短い縮れた毛のやふなCとアバタ模様のかなり広範囲のCKとが西方に輻射点をもってひろがり、山はすべてS又はSKをまとって、何となく不安な空模様だった。折柄通りかヽった名取さんに今日の天気を訊くと
「どうもえらいはつきりしませんが夕立もくるでせう」と言った。
午後一時になると釜無入笠の上に大きな積乱雲が立ってそれが忽ち仰角八十度位に伸び、東と北々西にも同じ位の立雲。東から火焔状のCが流れ出し、Fkは西に動き、青空に費の暈が現れて、不気味な雲景を呈した。
やがて一時半頃東北東に遠い雷五回を聴いて二時二四分微雨があったが、いくばくもなくやんだ。
しかし三時五十九分甲斐駒の上のあたりにKNが漠々と拡がって雷鳴の第一声をきかせ、続いて雷光と雷鳴(光と音の間隔二五秒)、実にもう一度雷鳴があったのが四時五分雨乞山嶽が雨足にけぶり、それから五十分後釜無川右岸に見える赤ナギもぼんやりしたかと思ふと雨が降り初めて、そのまま遂に今に至るまで降り続いてゐる。(午後九時半)
名取さんの豫報が適中し、自分の今朝の豫感も当たったやうだ。それに今朝は釜無山脈の中腹に帯のやうに出来た山カツラ(層雲)が、雲底の高さは変わらずに、上へ上へと盛り上って山頂をかくし、やがて連続した積雲になる過程も初めて見た。
やはり不連続線の為す業のやうに思はれる。
此處でも亦東風は雨をもたらすのではないだらうか。
八月の太陽の位置 獅子座西半
日の出入方位角
月初めは二十四度 北
月末は十八度 北
南中高度七二度半が六八度に下がる。
八月二四日
○ 霧
今朝はこの富士見へ来て初めての霧を体験した。午前六時には五0米以上前方は見えない程の濃霧(階級六)で漠々とした白い霧粒の流れの濃淡の渦巻きを作って東から西へと無限無終の感じで移動して行った。一昨年のちゃうど今頃、北海道行きの途中、東北線の尻内から古間木のあたりで早朝やはりかういふ霧を見たことを思い出す。霧が濃くなると右手の太平洋の方から朝日が洩れ、高原のやうな感じのする寂しい風景の前景に柏だのハンノキだの林が続き、線路のわきの湿地にミゾハギがびっしより濡れて咲いてゐたりするのが、旅の朝の心に嬉しいやうな悲しいやうな感銘を與へたものだった。
午前七時になると霧は大分うすれ五00米位まで見えるやうになり、ところゞ青空も現れ、やがて陽も射すようになり、遂にはすっかり晴れ上った。今朝早朝の冷たく沈殿してゐた空気の上へ、甲府盆地の方から比較的温暖な南東気流が流れて来て混合霧を発生させたのではあるまいか。太陽が八ヶ岳から顔を出す六時頃が一番濃厚な霧だった。太陽も手伝つたのであらう。
○ サンセウクヒ エゾゼミ
午前八時半サンセウクヒが鳴きながら飛ぶのを見た。エゾゼミ今朝も十時に鳴き出す。気温二二度、湿度七八、陽光。
○ ウスバキトンボ
ウスバキトンボが沢山庭先を飛んでゐた。
八月二五日
今日は午前五時から午後十時まで一時間毎の気温、湿度天気、風向をとってみた。午後から天気が悪変し、正午過ぎ突然風が南東から西へ変ってそれが約二時間ばかり続いたので気温がぐっと下がった為、曲線が多少不自然になったが大躰の様子が数量的に分かった気がする。
此の西の風が冬季には非常に卓越するといふから、此處での今年の冬の経験はちと恐ろしくもあれば面白さうでもある。
早朝森りでカケス三、四羽を見、クロツグミを見た。カケスは普通の嗄れ声のほかに「ミーヤ、ミーヤ」といふやうな小猫に似た声も出す。
例のヒタキも庭へ来た。サンセウクヒも鳴きながら飛んでゐるのを数体目撃した。トビの空を舞ってゐるのも見た。
松虫草がぽつぽつ先はじめてゐる。
朝は相変わらず日柄と頬白の歌だ。
今の草刈りで、一日一人前の刈量は六十貫、馬一頭に六把積み、それが二回十二把だそうだ。一把五貫目に当たる。刈場はめいめい定まってゐる。(隣家名取久氏の話)
気象同好会の伊坂達孝氏から来信、会の評議員になる事を頼まれ、第一回の総会に雲の話をしてくれと頼まれた。会則も送って来た。賛助会員年額百円。普通会員月額二円。賛助会員になる事とし、丁度蝋人形社からの小為替(稿料百円)をそれに宛てる事にした。
下諏訪発省営バス丸子行き時間表、
午前八時、午後二時四十分
(栄子調査)