朝の速記
わずかの間だがぐっすり眠った。
相客はまだ昨夜の毛布をかぶっている。
海上は夜あけが早い、
船室のすべての白い物に薄青い影がある。
毛布から銀行家型の禿頭がぬっと出る。
それが訊く、「もう室戸は廻りましたかな」
洗面所では顔じゅう泡にして髭を剃った。
舷窓のそとは紺地に金の屏風だ。
白麻の服にすがすがとして甲板に立つ。
薄れかかった月と木星とが大煙突の上で横揺している。 (横揺 ローリング)
さえぎるものもない太平洋の水と風、
今日は陸でも立秋だ。両切のうまさ! (陸 おか)
もう船じゅうが朝の作業を始めている。
海員のやる事は規律があっててきぱきしている。
四国山脈の雲を破ってらんらんたる朝日が出た。
その烈しいまばゆさに一切過去が薄くなる。
食堂へ出たら船長さんが慇懃に接待した。
むこう側のお嬢さんが大ぎれのハムを四つに畳んで頬ばった。
もうあと一時間。前途に持つものは何かは知らぬが、
受けるものは皆味わって何一つ無駄にしないつもりだ。
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